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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)2485号 判決 1999年6月17日

大阪府和泉市太町四七-一一

原告

井上博之

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

陣内孝雄

右指定代理人

岩松浩之

玉井勝洋

清水直子

鈴木紳

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金三〇万円を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、特許庁が、インターネット上のホームページ・アドレスを印刷した封筒及び同アドレスの他に葉書の展開部分と展開方向を示す三角形の図形と矢印型の図形を印刷した折り畳み式の郵便葉書を使用したことが、原告の著作権を侵害するとして、被告に対し、著作物使用料に相当する額の損害賠償を請求している事案である。

二  前提的事実(証拠の掲記がないものは争いがない。)

1(一)  原告は、次の論文又は言語の著作物(以下「原告論文」という。)について、文化庁に第一公表年月日を登録している。(甲第六号証、第七号証及び第九号証)

(1) 登録番号 第一五五一九号の一

題号 環境広告、はがき広告、地球はがき、環境はがき

第一公表年月日 平成八年七月一〇日

著作物の種類 言語の著作物

(2) 登録番号 第一五四九五号の一

題号 裏広告、広告付き製品名、製品名広告及び美観を損なう事のない広告

第一公表年月日 平成八年六月一六日

著作物の種類 論文

(3) 登録番号 第一五五二六号の一

題号 環境広告、地球名刺、地球伝票、地球封筒、地球葉書(2)

第一公表年月日 平成八年八月二日

著作物の種類 言語の著作物

(二)  また、原告は、別紙一ないし三記載の図形(以下、これらの図形を総称して、「原告図形」という。)を作成し、この第一公表年月日について、文化庁に登録を申請している。(甲第一〇号証ないし第一二号証及び弁論の全趣旨)

(三)  原告論文の内容の要旨は、地球環境の保護のために、名刺、封筒等にインターネット上のホームページ・アドレス等を掲載する場合には、その余白部分や裏面に「地球の図形」や「地球を守ろう」「地球の温暖化を防ごう」などの文言を記載し、資源は有限であることや、紙のリサイクルを促進することについて意識付けをしようとの提唱であり、その記載内容やホームページの内容に応じて段階を設け、著作権使用料及び地球環境保護基金を徴収するという趣旨のものである(甲第六号証、第七号証及び第九号証)。

2  特許庁は、インターネット上のホームページ・アドレスを印刷した封筒(以下「被告封筒」という。)及び同アドレスの他に葉書の展開部分と展開方向を示す三角形の図形と矢印型の図形を印刷した折り畳み式の郵便葉書(以下「被告葉書」といい、被告封筒と併せて「被告封筒等」という。)を使用している。(甲第一号証、第二号証)

3  平成一〇年三月二日、原告は特許庁長官に対して、被告封筒の使用中止、及び「資源は有限」、「地球の環境破壊を少しでも守ろう」という趣旨の文言を印刷するように要請したが、特許庁からの返答はなかった。

三  原告の主張

特許庁が被告封筒等を使用する行為は、原告論文の著作権を侵害する。

また、被告葉書を折り畳んだ状態における表面及び裏面の左下部分に記載されている三角形及び矢印型の図形は、原告図形の著作権を侵害する。

特許庁の行為により、「地球封筒」の「商標と著作権」通常実施権設定のFC店募集が中止となり、原告は一〇〇万円の損害を受けた。

本訴では契約金と使用料に相当する額として三〇万円を請求する。

四  被告の主張

1  原告の主張は、原告論文の著作権が、論文に示された諸要件を充足する物件全般に対しても及ぶものであるかのような前提に立った上で、被告封筒等が原告論文の著作権を侵害しているとする趣旨であると思料される。

しかし、著作権法の保護対象たる「著作物」は、思想や感情を創作的に表現したものであることを要し(同法二条一項一号)、アイデアや理論自体は著作権の保護対象たり得ない。また、著作物の保護については登録を要しないという無審査方式が採用されていることからも(同法一七条二項)、登録主義が採られている特許権のように保護対象を発明を特定するために必要な構成要件によって画定するといった考え方は妥当する余地がない。

このように、著作権法の保護対象は、発行又は公表された「著作物」それ自体であり、たとえ当該「著作物」の中において、アイデアが述べられ、そのアイデアを実現するための構成要件が示されているとしても、当該著作権が、当該構成要件を充足する物件全般に対してまで及ぶということはできない。

2  本件に則していえば、原告論文において、アイデアと構成要件らしきものとが示されているところであるが、右のとおり、著作権の保護対象は、著作物たる原告論文それ自体であって、右構成要件らしきものを充たす物件全般が原告論文の著作権の保護対象となるというものではない。

そして、被告封筒等は、原告論文について何ら複製、掲載、転載等の行為を行っているものではないから、原告論文の著作権を侵害するものではないことは明らかである。

3  被告葉書の表面及び裏面の左下部分に記載されている三角形及び矢印型の図形が原告図形の著作権を侵害するという原告の主張は争う。

第三  当裁判所の判断

一  原告の主張は、まず、原告論文の著作権を侵害したとする部分については、特許庁が使用している被告封筒等にインターネット上のホームページ・アドレスが記載され、かつ、その余白部分に何ら地球の環境を保護するための文言が記載されていないことをもって、前記第二の二1(一)に記載した原告論文の著作権を侵害したとするものであると解される。

そこで検討するに、甲第一、第二号証によれば、被告封筒等に記載された表記は、「http://www.jpo-miti.go.jp/」であると認められるところ、右表記は、インターネットのWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)サーバー上で情報を発信するために開設したホームページを、閲覧用ソフトであるWWWブラウザーを使って閲覧するために必要な画面の識別標識であるホームページ・アドレスを示したものであることは、その記載の態様から明らかであり、右表記のうち、「http://www.」及び「go.jp/」の各部分は、右ホームページ・アドレスを表記する際に用いられる共通の符号の一つであることは公知の事実である。また、右表記のうち、識別標識としての機能を果たす「jpo-miti」の部分が、特許庁の英語表記である「Japanese Patent Office」の頭文字及び通商産業省の英語表記である「Ministry of International Trade and Industry」の略称を結合したものであることは、記載上明らかである。

そうすると、右の各表記が一体となった「http://www.jpo-miti.go.jp/」との記載は、共通の符号に識別標識たる通商産業省特許庁の英語表記の頭文字を付加したものであって、著作物の要件である創作性が認められる余地はなく、また、右のホームページ・アドレスを表記するためには他の表現手段が無いことは明らかであるから、右の表記が他人の著作権を侵害することはあり得ない。

なお、付言すれば、言語の著作物については、著作者は、著作者人格権を有するほか、著作権として複製権、上演権、公衆送信権、口述権、貸与権、翻訳権、翻案権などを専有するが、他人が当該言語の著作物に記載されている趣旨、主張等を実践していないことをもって、当該著作権を侵害するものということができないのはいうまでもない。

二  次に、原告主張のうち、原告図形の著作権を侵害したと主張する部分は、<1>被告封筒等に記載されているインターネット上のホームページ・アドレスの表記が原告図形について原告が有する著作権を侵害する、<2>被告葉書の表面及び裏面の左下に記載されている三角形及び矢印型の図形が、原告図形について原告が有する著作権を侵害する、との趣旨のものであると解される。

そこでまず、<1>について検討するに、前記一で述べたとおり、右のようなインターネット上のホームページ・アドレスの表記それ自体は、著作物の要件である創作性が認められる余地がなく、また、右のような符号は万人にその使用が認められるべきものであって、いかなる者にもその独占が許されない性質のものであることは明らかであるから、他人が右表記を通常の方法によって用いることが、他人の著作権を侵害することはあり得ない。甲第一号証及び第二号証によれば、被告封筒等に記載されているインターネット上のホームページ・アドレスは、通常の活字体で表記されているものと認められるから、右表記が原告の著作権を侵害することはあり得ず、原告の主張は失当である。

次に、<2>について検討するに、甲第一二号証によれば、原告図形の中には、折り畳み式の葉書の隅を三角形状に黒く塗りつぶし、これに展開方向あるいはその逆方向を指し示す矢印型の図形を結合したものが記載されていることが認められる。しかし、右図形は、折り畳み式の葉書において、その展開方法を示すものとして、この種の折り畳み式の葉書に通常記載される極めてありふれたものであることは当裁判所に顕著な事実であって、この図形自体に著作物の要件である創作性を認める余地はなく、右図形部分をもって著作物ということはできない。したがって、被告葉書にこれに類する図形が記載されていたとしても、原告図形のうちの右部分については著作権は成立しないのであるから、被告葉書の記載が原告の著作権を侵害することはあり得ず、原告の主張は失当である。

三  よって、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないから、主文のとおり判決する。

(平成一一年五月一八日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 渡部勇次 裁判官 水上周)

別紙一

**地球を守るホームページ・アドレスの図形**

*[1-A]従来のホームページ・アドレスの図形は無地に黒色であるが地球封筒のホームページ・アドレスは色彩のあるもの。又は生地が色彩のあるもの、はは双方が色彩のあるもの。

*[1-B]従来のホームページ・アドレスの前に地球の図形、又は後にNO.1、A、AA、AAA、を加えたもので、次ぎの様になる。

<省略>

*[2]標準書体を横太体、縦太体、特太体と半角、全角、縦倍角等を大文字と小文字を組合わせた形状の図形である。

<省略>

*[3]網かけ文字、半転文字、網かけ斜体、反転斜体、白抜き、網かけ白ぬき、反転白抜き等の標準文字とローマン体とゴシック体をレタリングした創作の図形である。

<省略>

WWW目形

*地球を守るホームページ・アドレスの図形*

<省略>

別紙二

**地球を守る「地球封筒」の図形の経緯と地球封筒の図形**

日本国特許庁    意匠番号

平成 年 月 日発行  意匠公報 S 955577

<省略>

第一公表年月日登録番号第15526の1:2.4.5頁

**2頁の図 封筒裏面の参考図(1992年環境庁送付)

<省略>

<省略>

**地球封筒の図形**は2頁と3頁の図形に「C」を[1-A][1-B][2][3]を入れた替えた図形である。*「c」*はホームページ・アドレス

*[1-A]従来のホームページ・アドレスの図形は無地に黒色であるが

地球封筒のホームページ・アドレスは色彩のあるもの。又は生地が色彩のあるもの、はは双方が色彩のあるもの。

*[1-B]従来のホームページ・アドレスの前に地球の図形、又は後にNO.1、A、AA、AAA、を加えたもので、次ぎの様になる。

<省略>

*[2]標準書体を横太体、縦太体、特太体と半角、全角、縦倍角等を大文字と小文字を組合わせた形状の図形である。

<省略>

*[3]網かけ文字、半転文字、網かけ斜体、反転斜体、白抜き、網かけ白ぬき、反転白抜き等の標準文字とローマン体とゴシック体をレタリングした創作の図形である。

<省略>

*地球を守るホームページ・アドレスの図形*

<省略>

別紙三

**地球を守る「地球折り畳みはがき」の図形の経緯とその図形**

(19)日本国特許庁    意匠番号

平成8年 1995年7月25日発行  意匠公報 S 959269

<省略>

**第一公表年月日登録番号第15519の1の2頁の図形**

<省略>

地球はがき表面の図形

<省略>

a.郵便番号b.差出欄、発信者、住所、電話、FAXc.wwwd.宛先欄、住所、宛先名

E.地球葉書の言語-F-*郵便はがき*

<省略>

E は登録番号15519の1:2の言語 a.b.d.e.は標準文字を使用する.

*郵便はがき**郵便H GA GA KI* YUB NHAGAKI*破線は文字の入る大きさと位置を表し、「差し出し者」の幅が広い。

地球を守る「折り畳みはかき」のWWW付きの図形

表面の図形 表面の展開した図形

<省略>

*地球を守る折り畳みはがきの図形*

「郵便はがき」の図形

<省略>

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